顧客開発モデルの学習と教訓 そして日本では・・・

前回までの4回にわたり、スティーブ・ブランクの「顧客開発モデル」を各ステップごとに紹介しました。概要レベルでは伝えられなかった教訓が伝わることを願いつつ執筆したつもりですが、各所において専門的な表現が避けられず、また、ブログ記事としては長すぎる文章になってしまったのが後悔です。

今後はさらにテーマを絞った記事を書いていこうかと思っていますが、今回はちょっと振り返り的な投稿をしてみたいと思います。

ところでみなさんは、4回の連載中、各回によって、大きくテーマが変わったことに気づかれたのではないでしょうか?

これは、スティーブ・ブランクが本書で扱ったテーマ、すなわち、スタートアップの失敗パターンを非常によく表していると思います。

私が思うに、スティーブ・ブランクが見出したスタートアップの代表的な失敗とは、

1.技術者による製品開発偏重による失敗

2.大企業出身の営業およびマーケティング担当による、市場タイプを無視した戦略策定による失敗

3.”出資者”の問題

の3つなのではないでしょうか。

いつの時代も技術者は自分が作る製品はとても優れていて、完成して世の中に出しさえすれば必ず売れると信じてしまう習性と、大企業出身の営業・マーケティングのプロたちが、自分が他の企業でやってきたのと同じ戦術で失敗する姿を繰り返し見てきたのでしょう。

そうした失敗からの「学び」が、製品開発偏重は「顧客発見」に、営業・マーケティング担当者による失敗は「顧客実証」「顧客開拓」に、そして出資者のプロセス指向による失敗が「組織構築」に反映されているのだと思うのです。

リーンスタートアップの提唱者エリック・リースは、スタートアップのソフトウェア開発がウォーターフォールでは学習と発見には適応しないことから、アジャイル開発による反復的な製品リリースを提唱しています。現時点でのリーンスタートアップは「顧客開発モデル+アジャイル開発」として語られることが一般的です。エリック・リースのこの提案は、スティーブ・ブランクが提唱した顧客開発モデルにとって、テック・ベンチャー領域におけるトラクションを加える結果となりました。

しかし、現実的な問題としては、これらの概念ではスタートアップに必要なすべての要素はカバーされておらず、リーンスタートアップの教訓だけでは起業は成功しないのも事実です。

例えばファイナンスの問題。特にシード期の資金調達は日本では大きな課題であり、どのような資金調達がスタートアップを加速させるのかについてはもっともっと失敗からの教訓の蓄積が必要です。

こうした状況を見ると、リーンスタートアップとは「進化させていくフレームワーク」のような気がしており、様々なバックグランドを持った専門家(例えば人材採用など)によって教訓が持ち込まれることで、更にスタートアップ・バイブルとしての価値が増していくように思うのです。

また、スタートアップを取り巻く環境は国や地域によって異なっており、その地域固有の教訓というものも存在しています。ということは、将来的にはリーンスタートアップは地域ごとにローカライズされ、そのバイブル価値が上昇する可能性を持っているのではないでしょうか。

リーンスタートアップは様々な国や地域でMeetupと呼ばれる会合が開かれ、熱心なアントレプレナーやキャピタリストによって情報交換や勉強会が開催されています。こうした集まりで彼らの中心的な議題は「新たな発見を共有し、学習すること」であり、成功者の戦略をただ聞いているだけではありません。

現在の日本のスタートアップ事情を振り返ったとき、シリコンバレーとの比較により、様々な分野についてアントレプレナーを支援する環境や知識、文化の違いなどが語られています。

しかし、もっとも欠けているのは「失敗から教訓を見出し、共有できるプラットフォーム」の存在であり、これは日本に限った問題ではありません。世界中のアントレプレナーが必要とする、世界共通の課題なんだと思います。

製品開発のこと、資金調達のこと、人材採用、マーケティング、営業、組織戦略など問題の種別に関わらず、成功事例にはスポットライトがあたりますが、失敗について多くを語る場所が存在しない・・・。

シリコンバレーのアントレプレナーやVC達はそのことにいち早く気づき、スタートアップにイノベーションを起こそうとしているのが「リーンスタートアップ」の取り組みの本質なのではないでしょうか。

私にとってリーンスタートアップの価値とは、スタートアップの失敗を積極的に持ち込み、そこから得られる教訓を見出していく場としてのものです。すでにスティーブ・ブランクやエリック・リースが書き記したものをリファレンスすることではありません。彼らが発信する情報を「ふむふむ、なるほど」と受け取っているうちは、いずれ時代の変化と共に廃れていくひとつの情報に過ぎないでしょう。

私は、そうしたインフラを整備するためには、まずはリーンスタートアップが広く認知される必要があると考えています。少なくとも、失敗から教訓を見出した貴重な先駆者たちが、情報を共有するための場所として認識できるようになるまでは。

そのためには、もっともっと多くの情報を自分から発信し、より広く、より深く、そしてより多くのアントレプレナーと交流していくことがまず最初の課題です。

どのような形で実現していけるのかはまだ手探りの状態ですが、きっとよい機会が見つかると信じてこのサイトを続けていくつもりです。

ぜひフィードバックをお寄せください。

一つ一つのご意見が、大きな明日につながると信じています。

どこかでこの記事を読んでいただけているみなさまと、近いうちに熱い想いを語れる日が来るのを願いつつ!

Toshihisa Wanami

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