ケーススタディ1「Dropbox」

Lean Startupの事例紹介第一回目は、Dropbox社の事例を紹介します。

本ケーススタディは、2010年4月に開催された”Startup Lessons Learned Conference”にて実施されたDropbox創業者Drew Houstonによる講演より作成しました。

 

 

 

 

【企業概要】

Drew HoustonとArash Ferdowsiにより、2007年にY CombinatorよりSeed Fundingを受け設立。

現在ではSequoia Capital、Accel Partners、Amidzadからも資金調達を受けている。

従業員数:17人

未上場

http://dropbox.com/

【製品概要】

Dropboxは簡単にオンラインで電子ファイルを保存、同期、共有できるストレージサービスです。

使用環境は、Windows、Mac、Linux、iPhone、Android、Blackberryといったプラットフォームを問いません。

各デバイスのローカル環境のDropboxフォルダに保存された(更新された)ファイルは、他のプラットフォームやデバイスが起動すると自動的に(バックグラウンドで)追加、更新され、常に最新の状態に保たれます。

日本でもすでに多くのユーザに支持されており、特にスマートフォン向けには、購入後に最初にインストールするべきアプリケーションとして幅広く浸透しています。

ユーザはサインアップ後に無料で2GBのスペースを利用でき、紹介した人がサインアップすると、さらに250MBのスペースがゲットできます。

有料サービスは、50GBのスペースが月額$9.99または年払$99.00、100GBスペースが月額$19.99または$199.00となります。

【現在までの実績】

2008年9月の一般向け販売開始から24ヶ月で500万ユーザのサインアップ登録を数えています。

有料ユーザの割合、売上額等は発表されていませんが、2008年9月時点の10万ユーザからの増加率及びAxelaランク795位(2010/10月時点)を考慮すると、今後はマネタイズモデルの構築とマーケティング戦略を中心に、メインストリーム市場に向けた追加融資へと進むと思います。

【スタートアップ時の主要な課題】

Dropboxが設立された2007年当時、すでに世界中にオンラインストレージサービスは存在しており、その数は90以上であったと言われています。(創業者Drew Houstonの発言より)

しかも、そういったサービスのほとんどが、プラットフォームに依存しない、Webブラウザからのアクセスを中心としていたため、端末にアプリケーションをインストールするファイル共有サービスは歓迎されないと思われていました。

事実、Seed Fundingを行ったY Combinator「以外」は、このビジネスモデルは成功しないと判断したようです。

当初、Drew Houstonは、Dropboxのタグラインを「Throw away your USB drive」としてUSBメモリーや、自分宛にメールでファイルを送信するようなユーザへの代替サービスと位置づけていました。

しかし、Dropboxのように、自動的にファイルを保存、更新するようなサービスは当時存在しておらず、画期的に便利であったがために逆に「ユーザは存在しないサービスをWebで検索したりしない」というハンデを負うことになります。

それでも、他のオンラインストレージサービスのユーザフォーラムサイトで「保存したWordやExcelファイルのほとんどが0バイトになった。非常に不愉快!」という投稿を見て、はやりユーザのニーズはあると確信し、スタートアップを決意したのです。

【失敗した戦略】

マーケティング戦略として、googleのAdWordsを購入。「Online Storage」といったキーワードを設定した。

結果として、$99のオプション契約ユーザ獲得に要した費用は$400弱!

「検索」から製品の存在を知るユーザ層は、ほとんど有料サービスに加入しないという結果になったのです。

また、検索から訪問したユーザには無料サービスの存在を隠し、「有料サービスの期限付き無料試用」のみを提供した。

結果的にはこれがDropboxのサービス体系理解に混乱を及ぼし、ビジネスモデルを見直す必要が生じたのです。

こうした戦略策定のために、アフィリエイトやSEMの経験者を採用しましたが、こうしたメンバーがユーザの増加に貢献することはありませんでした。

【Lessons Learned(教訓)】

Web2.0の成功方程式となっていた数々の戦略が、自分たちの製品ではまったく通用しないということに早い段階で気づいたこと。

例えば、カンファレンスへの出展や「検索」重視のマーケティング戦略、戦略的パートナーシップや事業開発プログラム、多機能化などは、既存商品のためのマーケティングだと学習します。

そこで、Dropboxの潜在的ユーザといかに出会い、彼らからフィードバックを受けるためにはどうすればよいか?に着目し、とにかく製品を出荷すること(試してもらう)、そしてこうしたユーザとの密接なつながりから様々な調査を開始します。

【成功した戦略】

Dropboxにサインアップするユーザの典型的な行動パターンを調査した結果、

1.使用する必要を感じないまま、友人やblogからの紹介で使ってみる(無料版)

2.あ!こんな方法があったんだ!と気づく

3.しかもホントに便利!

4.思わず他の友人に紹介したり、blogに書いたりする

だとわかった。

これを推し進めるために、WOM(口コミ)とバイラルマーケティングを重視。

こうした機能を必要としているユーザが集まる場所(サイト=digg.comなど)に記事を投稿して認知を増やし、とにかく使ってもらうことに専念。

同時に、Dropboxの使い勝手を良くすることに注力し、試してくれたユーザが「これはいい!誰かにも教えよう!」と思ってもらうことに狙いを定めた。

更に、紹介した人がサインアップをしたら250MBの追加スペース提供というプログラムを開始。多くの人がblogでDropboxを紹介してくれるきっかけとなった。

【解説(訳者コメント)】

Dropboxのサービスは、典型的に「ニッチゆえのニーズ予測不能」型のスタートアップと言えます。

ターゲットは、様々な環境での同一ファイル編集やファイル共有を望んでいるユーザですが、わざわざ新しいサービスにサインアップするほど「困っているか?」は疑問です。

Dropboxのサービスがなくても、ユーザはUSBメモリや自分宛のメール添付など、様々な手段で基本的な問題は解決しているからです。

こうした場合、ユーザ側が自らの能動的なアクション(検索など)により、サービスの存在に気づく可能性は非常に低く、スタートアップのモデルとしては「既存市場に対する新規製品投入」だったと言えます。

この組合せの場合、主要なスタートアップ課題は、新サービスに対する既存市場のニーズ判断と、市場に投入する際の機能選定です。

Lean Startupでは、顧客発見プロセスにて「エバンジェリスト・ユーザ」からのフィードバックを受けながら製品開発を行ないますので、Dropboxの場合も、この顧客発見プロセスでいかに有効なユーザフィードバックが得られるかがキー・サクセス・ファクタ(KSF)となります。

Dropboxというサービスをgoogleの検索から広く認知させようという戦略は、すでに既存商品として認知されている商品をメインストリーム顧客に認知させるためには有効ですが、エバンジェリストユーザに出会うために「検索」が適しているとは言えません。

エバンジェリストタイプのユーザは独自の情報源を持っていて、そこに登場する記事中から新たなサービスを認知する傾向が高いからです。

結果的には、digg.comやHacker Newsといった「コミュニティーサイト」にDropboxの紹介記事を投稿したことによって、ユーザ層は大きな広がりを見せました。

記事の投稿から1日で、数万ユーザがウェイティングリストに登録したのです。

そしてDropboxが成功した最も大きな要因は、こうして獲得した熱心なユーザを喜ばせ、更に次のユーザへ自ら宣伝するような仕掛けを行ったことです。

まず製品がしっかりと機能すること。そして紹介プログラムです。

こうした仕掛けをしっかりと用意しておくことで、アーリーアダプターの口コミ力をしっかりと活用し、メインストリーム顧客でもその存在を認知できるほどまでにユーザ数を拡大しているのです。

もうひとつ、Dropboxが「生き延びた」理由としては、Lean Startupの指針である「支出を最大限に削減する」を実行したことです。

Dropboxの場合、マーケティング戦略を口コミやバイラルに移行してからは、マーケティングにかかる支出は大幅な削減を実現しています。次のターゲットはサービスの維持費用です。オンラインストレージサービスの場合、主な費用は、増加するユーザ数に耐えうるディスクスペースの確保です。そこでDropboxでは、ユーザからのフィードバックを元に、必要最低限の機能に絞り込むことを開始します。

ここで大切なのは「何が必要最低限の機能なのか?」をいかに正確に理解するかです。費用の大幅な削減には貢献しても、ユーザが必要だと感じているベネフィットを削減してしまっては意味がありません。また、取るに足らない機能だと思っていても、それがあるからユーザは口コミするといった場合もあり、機能の削減はスタートアップにとって非常に慎重に行う必要があります。

こうした際にもやはり参考にしたのは初期ユーザからのフィードバックでした。Dropboxでは、ユーザとのコミュニケーションフォーラムを開設し、各機能に対する投票機能を設けたのです。

こうした働きかけの結果、ディスクスペースを大幅に占拠していた「無限UNDO機能」(ファイルを更新するたびに前のバージョンも保存しておき、いつでも元の状態に戻せる機能)は、ほとんどユーザからの支持を受けていないことを理解します。

そしてユーザへの機能削減の告知を経て、これを無料サービスから有料サービスの機能へとシフトさせ、ディスクスペースにかかる費用を大幅に削減することに成功したのです。

こうした機能の増減に関しても、Dropboxではユーザとのコミュニケーションを大切にし、決して社内で「コスト一覧表」から判断したのではないということが、更にその後の支持を拡大し続ける結果につながったのです。

アジャイル開発には既に長けていたDropboxにおいて、Lean Startupからの主要な学習は、製品タイプと市場タイプを正確に認識したことでしょう。

多くのスタートアップが、優れた製品・サービスを持ちながらも失敗する原因であるこの組合せを早期に(1年で!)学習できなければ、Dropboxはいまだにマーケティング担当VPを雇い続け、そして消滅していたに違いありません。

Dropboxは現在シリーズAの融資を受けています。

3 Comments to “ケーススタディ1「Dropbox」”

  1. […] This post was mentioned on Twitter by MarketingNote_bot, twidake. twidake said: こうした機能を必要としているユーザが集まる場所(サイト=digg.comなど)に記事を投稿して認知を増やし、とにかく使ってもらうことに専念。 http://leanstartupjapan.org/?p=57 […]

  2. […] 以前の記事でご紹介したケーススタディも昨年の開催から起こしたものが多く、今年も充実した内容でした。 […]

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