"Lean Startup Japan"

新規事業を成功させる4つのステップ

回らないフィードバックループの原因と絶対に誰でもわかる改善策

 

リーンスタートアップの基本的な考え方である「ニーズが不確かなサービスは初期段階では小さく始め、確からしさの検証を重ねて大きく育てる」は、クラウド環境の浸透やスマートフォンアプリ開発のハードル低下とともに、実に分かりやすく始めるのもカンタンです。

しかし、この分かりやすさと始めやすさとは裏腹に、リーンを実際に運用してみると「どのように育てたら良いのか分からない・・・」という困惑をよく見かけます。課題の改善を繰り返しても良い結果につながらないなど、前へ進んでいる実感を得られない状態に陥り、フィードバックループが回らなくなるのです。

今日は継続的な改善における典型的な失敗事例をご紹介して、リーンの効果が劇的に向上するあるポイントをお伝えします。
多くの方がその間違いに気づかないポイントなのですが、いったん分かってしまうと実に簡単なことなので、ぜひご一読ください。
では、すでにローンチ済みのサービスの改善を行っている場面を想定しながら、一緒に考えてみてください。

 

 

下の図は、あるサービスにおいてチームが「ユーザの滞在時間を向上させる」という改善に取り組んでいる場面を表しています。滞在時間の長いユーザがARPUが高いことをデータから読み取ったエンジニアが、滞在時間を向上させる施策としてユーザの行動履歴からレコメンドを表示するという機能を投入するという、サービス改善を行うチームではよく見かける光景です。

しかし、この改善活動にはある重大な欠点が隠されているのですが、みなさんはその間違いが分かりますでしょうか。課題があって、改善策を立てて実行したらその結果を確認する、という単純な作業なのですが、ここにはPDCAを回す上での大きなミスがあるのです。この先を読み進めて答えを見てしまう前に、ぜひ少し時間を取って考えてみてください。

 

wrong_feedback_loop

 

 

 

 
いかがでしたか?分かりましたか?

正解は「メトリクスの設定が間違えている」です。
正しくは、まず最初に「レコメンドが押下されたか?」を測定しなければならないのです。

 

vanity_metrics.001

 

???

なんで?滞在時間を向上させるために対策を打ったのだから、それが向上したかを確認するのは当たり前?

ですよね。
ではこのフィードバックループの詳細を見ていきましょう。

ここでチームが成し遂げたいことは「ユーザの滞在時間の向上」です。これが今回の作業の「目的」に相当します
次に「レコメンドを表示する」とうのは、この「目的を達成するための一案」として実行されますので、つまりは「手段」に相当します

つまりこの両者は「目的」と「手段」の関係にあるわけです。

図のループでは手段を講じた結果として目的が達成しているかを判断しているわけですが、手段と目的の関係には常に以下のような結果が発生します。
1.手段が達成され、目的も達成された(よって目的と手段は因果関係があった、と推測できる)
2.手段が達成されず、目的も達成されなかった(同じ)
3.手段は達成されたが、目的は達成されなかった(よって目的と手段に因果関係がなかった)
4.手段は達成されなかったが、目的は達成されていた(目的と手段には因果関係がなく、かつ他の要因が目的を達成した)

この場合、手段である「レコメンドの表示」を投入した効果を測定するには、次の2段階を経る必要があります。
1.ユーザはレコメンド表示に反応したか(押下したか)
2.その結果としてレコメンド表示はユーザの滞在時間向上に貢献したか

 

2stepstovalidate.001

 

では上記の4パターン毎に、チームがその後に取るべき行動を整理しましょう。

1.手段が達成され、目的も達成された(よって目的と手段は因果関係があった、と推測できる)
→今回の測定期間においては、目的と手段に因果関係があったように推測できた。よって両者の関係性を今後も継続して定量的に観察し、その効果をウォッチする
2.手段が達成されず、目的も達成されなかった(同じ)
→まずはなぜ手段が達成されなかったのかを考察し、手段が実行されるよう修正を行う。両者の因果関係についてはその結果を持って判断する。
3.手段は達成されたが、目的は達成されなかった(よって目的と手段に因果関係がなかった)
→手段と目的に因果関係が無かったので、他の手段を検討すると共に、この手段をそのまま維持するかどうかも検討する(場合によっては、目的を達成できなかった手段は削除することも)
4.手段は達成されなかったが、目的は達成されていた(目的と手段には因果関係がなく、かつ他の要因が目的を達成した)
→手段が達成されなかった原因を考察すると共に、目的を達成した他の要因がなにかの調査を開始する

このように、目的と手段を明確に分離すると、ループの2周目でやるべきことがまったく異なる作業になることが分かります。これを単純に滞在時間が延びたら良かった、伸びなかったら他の策をまた投入するの⒉択で運用を繰り返していくと、実は手探りで運用しているのとまったく同じ状態になっていくのです。

書籍「リーン・スタートアップ」の中でエリック・リースは、自分たちのサービスがいかにイケているかを、ユーザ数や広告の視聴率などで測定することを “Vanity Metrics”と称して、やってはいけないことと論じています。本来は本当に自分たちのサービスが価値を持っているのかを測定し、自分たちの真の姿を理解しないといけないのですが、少しでもサービスの状態をよく見せようと「虚栄」の姿を見せようとする行為を「虚栄の評価基準」と呼んだのです。成功するスタートアップは「アクショナブル(対応可能な)評価基準」で事業を評価すべきだと。

これをプロセス設計の観点から解説すると、物事にはすべて「目的」と「手段」があり、これは幾重にも重なった構造を形成します。例えば企業活動の最終目標は決算において黒字化することや株価の向上に帰結してくるわけですが、この「目的」を叶えるためには、部門毎に幾重にも細分化された「手段(群)」で形成されます。こうしたひとつひとつの手段群を測定する基準として、いきなり株価で判断することはありません。それぞれの手段が個別に測定され、その集合体として「目的」が達成されたかを判断するのです。

つまり”Vanity Metrics”の正体とは、目的と手段の関係において、その構造を飛び越えたメトリクスで評価をすること全般を指すのです。
目的と手段の組み合わせが5層で構造されているとしたら、メトリクスは階層構造それぞれに存在しなければなりません。そして常にまず下位の手段が測定され、その結果として手段が上位の目的に対して効果があったかという判断を繰り返していくのです。これが「アクショナブル(対応可能な)評価基準」が設定されている状態です。

リーンスタートアップの考え方は実に単純ですが、実際の運用を設計すると実に深い考察が必要になります。今回のような「手段と目的は別々に測定し、その因果関係を考察する」といった基本を押さえていくことで、その精度は格段に向上するのです。

前回もお話ししましたが、リーンスタートアップとは事業開発を「マネジメント」することです。
マネジメントできている状態とはどのような状態であるかをぜひ考えてみてください。

新規事業成功確率を数式化する!その新規事業の成功確率は測定出来るのか?

前回の投稿では、企業におけるリーンスタートアップの導入には、新規事業設計責任者とリーンスタートアッププロセス設計責任者の分割が効果的であるとお伝えしました。両者は目的と手段の関係にあるので、担当も一緒にしてしまいがちですが、その効果測定はまったく異なる基準であるため、できる限り明確に責任を分離した方が運用は容易になるのです。詳細は前回記事をぜひご覧ください。

さて今回は「新規事業の成功確率」は定量的に測定できるのか?というテーマでお話ししたいと思います。なぜなら、エリック・リースは書籍の中でこう言っているからです。

「アントレプレナーシップとはマネジメントだ」

“Entrepreneurship is a kind of management”

私の理解では、マネジメントされている状態とは、その理論にそって取られた行動はやがて意図した結果にたどり着くことを指します。とにかく小さく始めてみよう精神に則り、行き当たりばったりでアイディアを投げ込むことが、リーンではないことを理解しなければなりません。

新規事業開発以外の企業経営には様々な経営指標があり、この指標から算出されるデータに基づいて経営者は次なる判断をすることが可能です。例えば、収益に対して利益が少ないことを課題に感じている経営者がいるとすれば、原価の割合である「売上原価率」を見れば状況を適切に判断することができます。売上原価率の算出式はこうなります。

売上原価率 = 売上原価 / 売上高 * 100%

この公式が存在することによって、利益を増やすための施策として、

  1. 現在の製造コストはそのままで差別化戦略によって販売価格を上げる
  2. 販売価格はそのままだが、生産工程を根本から見直し、製造コストを下げる
  3. 販売価格を向上と製造コストの削減を同時に実行する

の3つのどれかを実行すれば、売上原価率が改善することが分かります。

経営者はこの単純な数式が存在することにより、収益の向上を重点的に目指すか、それとも費用の削減に集中するかを検討し、企業の戦略を定量的に判断できるのです。

従業員もこうした単純な数式が示されることによって自社の戦略を容易に理解できますので、数式の存在は、経営をとても楽にすることができ、結果に対する不確実性を軽減できるのです。

しかし、実は新規事業開発に特化した経営指標となり得る数式はほとんど存在していません。

投資の概念から考えれば、ROI(投資利益率)やROE(株主資本利益率)などの指標が存在していますが、これは投資した「結果」の評価指標であり、今まさにチャレンジしようとしている新規事業の成功確率を判断するものではありません。どちらの指標も決算後の利益を元に算出されるため、新規事業のローンチされ、収益が生じるまで何も評価できないのです。経営者としては、まだ収益を生んでいない投資の進捗についても、できる限り定量的な測定が出来てしかるべきです。ですが、ここを測定する仕組みがないことが新規事業開発の進捗を定性化し、新規事業の継続に大きな影響を及ぼしていくのです。

では企業が今まさに開発中にある新規事業の成功確率はどのように測定できるでしょうか。

前回の投稿では、新規事業開発担当者と開発プロセス設計担当者の分離を推奨しました。この2つは同じ目的のために存在していますが、評価基準が異なるため、分離することが望ましいわけです。

つまり、新規事業とは、新規事業案が「良さげ」なだけではダメですが、反対にプロセスの効率ばかり向上させていても的外れなアイディアでは勝負になりません。つまり、この2つは常に平行して向上させていくものだということです。

ということは、素直にこれを数式に表すと以下のような表現になるでしょうか。

新規事業成功確率 = 新規事業アイディアの質 * 事業設計プロセスの投資効率

どうでしょうか? 事業アイディアの洗練と、それを最も効率の良いやり方で事業化を進めということが、最終的にはその事業の成功確率につながるということが表現できていますでしょうか。

これらをもう少し適切な表現に直していきましょう。

新規事業アイディアとは、成功するまでは単なる仮説です。ですから「新規事業アイディア」を「仮説の確からしさ」と言い換えてみます。

新規事業成功確率 = 仮説の確からしさ * 事業設計プロセスの投資効率

例えば、まだ世の中に存在していない製品・サービスを開発するという場合には、この「仮説の確からしさ」は著しく低い状態にあるといえますから、それを進めていく事業設計プロセスの投資効率は、よりリーンな分散投資へ向かっていくことで、新規事業の成功確率は向上します。逆に「がんの特効成分が自社の研究室で発明された」ぐらいに事業成功が確からしい仮説が出来た際には、それを進めていくプロセスはとにかくムダを徹底的に排除した「ウォーターフォール型」が最も事業の成功確率を向上させます。つまり、この数式が表現するものとは、仮説の確からしさが定量的に測定でき、それを実現するための最も適したプロセスで開発が行われれば、結果として新規事業の成功確率は向上することを表現しているのです。

そもそも多くの新規事業はぜんぜんニーズの確定していない状態からスタートしますので、こうした事業アイディアは「仮説の確からしさ」がほぼゼロからスタートすることになり、その結果として、初期段階の事業設計プロセスは常にリーンでなければならない、ということなのです。

問題は「仮説の確からしさ」とはどのように定量的に測定できるか?ですよね。確かにここが最大に難しい問題です。

しかし、実際にリーンな事業開発を行う現場では、まさにこの命題に取り組むことこそが事業開発担当者の主なミッションであり、ただ単純に飛躍したアイディアをひねり出すこと※や、意味のないユーザ獲得に明け暮れることがなくなるだけでも、とても大きな効果はあるのです。

※もちろん、飛躍したアイディアを生み出す作業も重要な作業であることは変わりませんので誤解なく(飛躍したアイディアとは、検証されなければただの妄想です・・・)

調査フェーズでは、SWOTやPEST、3C、5Forceといった分析が仮説の確からしさを向上させるでしょう。しかし、机上の調査をいくら進めたところで、検証されていない分析結果はすべて仮説の確からしさはゼロです。仮にこれを「仮説の確からしさ」の評価指標として取り決めておくだけで、仮説を設定した次に実行すべきは効果的な仮説検証に向かざるを得なくなります。確からしい仮説が生まれたら、それはそのままでは確からしさがゼロであるため、即座に効率の良い設計プロセスへ手渡されるべきなのです。そして検証を重ねるごとに検証結果(フィードバック)が判断され、仮説の確からしさが向上したかどうかの判断が繰り返されていきます。数式の2つの要素(仮説とプロセス)を行き来することで、左辺(新規事業の成功確率)が向上するという仕組みです。

この数式に従って新規事業開発を進めていけば、新規事業の成功確率が上がらない場合でも、仮説の確からしさが向上していないのか、それとも、もっともらしい仮説が生まれているにも関わらず、効率の良い検証プロセスが設計されていないのかが定量的に判断できるようになります。これだけでも、企業の取り組みを数式化することには大きな意味があるのです。

多くの企業では、新規事業開発の成功確率向上に向けて、単純に事業アイディアの洗練だけを行ってきました。しかし、こうして数式にしてみると、それだけではやるべき作業の全体をほとんど押さえていないことがよく分かります。先にご紹介した売上原価率の概念がなかったとしたら、企業は利益を上げるためにひたすら売上げ増だけをがんばりますが、結果として販管費が膨れあがり、売上原価率は向上しても販管費率が上昇して増益につながらない、という堂々巡りをするかもしれません。これと同様に、新規事業開発もその成功確率を数式化して分割的にマネジメントしていくことで、成功確率向上に向けた包括的な取組みが可能になるのです。

次回からはリーン・ファシリテーターのミッションを更に詳細化しながら、企業がどのように新規事業開発を「マネジメント」するのかを考察します。