"Lean Startup Japan"

新規事業を成功させる4つのステップ

3分でわかる「ビジネスモデル症候群」

 

2010年に当ブログを開設して「リーンスタートアップ」を紹介し、その後5年間にわたり実際に数多くの起業家や企業における新規事業開発を支援してきましたが、新規事業や起業を成功させるにはとにかく良いビジネスモデルを(仮説検証をしながら)設計できることが条件だと盲目的に認識している状態とは、「ビジネスモデル症候群」という「思い込みの病」を患っている状態だと感じるようになりました。

理由はとても単純。私が携わってきた事業開発や起業シーンにおいて良いビジネスモデルの設計と実現を真摯に追い求めるひとほど、現実的には良い結果を得られていないという現実が数多く発生したからです。そしてそのような状態に陥らせるよう、私自身が実に多くの方をミスリードしてきてしまったのです。一般的には事業成功確率と正比例の関係にあると信じられているビジネスモデルの設計・構築が、どのように事業開発や起業に悪影響を及ぼすかについて、最重要なポイントだけご紹介します。

私がこれまで経験した事業開発支援から、ビジネスモデルの設計・構築という行為には、マイナスの効果を生んでしまうデメリットが2つ存在することが確認できています。それは「シミュレーションに多大な資源を費やす」こと、そして「収益源の選択肢を狭める」ことです。この2つのデメリットは事業設計の初期段階において特にマイナス効果が大きいため、新規事業開発や起業の最初のステップとしてビジネスモデルの設計を開始することこそが、事業投資の失敗を招くという結果を生んでいるのです。2つのデメリットを説明します。

1.ビジネスモデルの設計が事業投資をシミュレーションに止まらせるというデメリット

ビジネスモデルを設計するという作業では、様々な仮説を設定し検証を行います。つまり「ビジネスモデル設計」とは、事業に実際に投資を行ったらどのような結果が得られるかを、実際に多くの経営資源を投じる前に「シミュレーション」している状態だと言えます。さてここで問題となるのは、シミュレーションから得られるデータの精度ですが、シミュレーションの精度が信用に値するかどうかは、「シミュレータ」がいかに実際の環境に近い状態にあるかによって決まります。しかし、事業開発に携わった方であればご存じの通り、「新規事業開発」とは「連続して発生する想定外への決断と対応」と同意語であり、シミュレータの精度が実際の環境とイコールになることなどありえないのです。

ということは、リーンの観点では、ある特定領域に対して事業投資を決定しているにも関わらず、半年・一年、いやそれ以上にシミュレーションに経営資源を投じるとはこそが「ムダ」だということであり、シミュレータの精度を向上させるには、実際に事業を開始する以外に手段はないということなのです。実際に事業を開始しないシミュレータの精度は著しく低いということを認識する必要があります。

2.ビジネスモデルの設計が収益源の選択肢を狭めるというデメリット

多くの場合、ビジネスモデルの設計という行為では特定の「収入モデル」を仮説化します。例えばフリーミアムモデルでプレミア会員からの月額フィーによって収益化するとか、多くのトラフィックを集めてメディア価値を向上し広告収入を得る、といった具合です。これを経営の観点から見ると、いわゆる「選択と集中」を行っていると言えるのですが、選択と集中が良い成果をもたらす唯一の条件は、数多くの選択肢の中から「最も勝算のある事業や収益源」を見いだし、そこに経営資源を集約させることです。つまり、まだどこにも勝算が見えていない状態で行う「選択と集中」は、基本的な経営の原則に逆らっている状態なのです。経営には原理原則がいくつか存在するのですが、特に財務面における原理原則に背いて成功する事業は絶対にありません。「事業の初期段階で勝算のない事業形態に経営資源を集中する」という行為は、完全にこの原理原則に反するものだと言えます。

この2つを一度理解してしまえば、ビジネスモデルの設計とは「適切なタイミングにて、勝算のある事業に対してのみ行われるべき」だということが分かります。

それでもまだみなさんは何も事業を実践していない段階で「シミュレーション」を続け、勝算のない事業に対して「誤った事業選択と集中」を続けますか?

これが2015年末までに私が見いだした、多くの方が事業立ち上げ時に最も顕著に犯す失敗のパターンです。そして今、「ビジネスモデル」という定義のハッキリしないキーワードによって、多くの人がこの失敗を繰り返しているのです。

これは、新規事業開発を行う企業や起業家だけに発生している症状ではありません。投資家、事業支援者、教育関係者、経営学研究者の間でも広範囲に広がる世界的な病なのです。

2008年、エリック・リースは「思い込みを捨てて顧客に学ぼう」と「リーン」であることの重要性を伝えてくれました。

2015年、私は「事業開発の最初の一歩では、ビジネスモデル症候群から脱却しよう」と「リーン」を推奨します。

今日、この記事を読んでいる最中にもシミュレーションを行い、勝算のない収益モデルに経営資源を集中させているあなたは、まさに「ビジネスモデル症候群」なのかもしれません。

来年こそはリーンな事業開発ができるよう、ぜひこの年末のタイミングでご自身の状態を振り返ってみて下さい。

また、ビジネスモデル症候群からの脱却方法については、今年の取組みの中で様々な実験を継続しています。自分も、自分の会社もぜひその実験に参加してもいいとお考えの方がいらっしゃいましたら、ぜひこちらからお問い合わせ頂ければと思います。これまでに蓄積した知見はすべてお伝えしますので。

※こちらの資料は2015/12/8に開催したセミナーでご紹介した「ビジネスモデル症候群」のスライド資料です。200枚弱のボリュームある資料ですが、ビジネスモデル症候群の発生メカニズムやビジネスモデル設計が有効な場面についても合わせてご確認頂けますので、上記記事で関心を持たれたらぜひご一読下さい!(たとえばビジネスモデルというシミュレーションを行うことは、「事業投資をしない」という経営判断を行うには効果があるということなどを解説しています)

MVPとは?をもう一度考えてみた

 

2013年最初のブログは「MVP」について再考してみようかと思います。リーンスタートアップを実践している方であればお馴染みのこの言葉、理念を理解するのは簡単ですが、実に奥が深いのです。

 

というのも、年末に家の大掃除をしていた時のことなのですが、家中に散乱する「紙もの」を何とかしようと、思い切って断捨離でもしようかと考えていました。しかし、ゴミ袋に放り込む前にもう一度だけ中身を確認しておこうと見返すたびに「いつかは必要になるかも…」との思いは増し、結局、書類の束を目の前にしてなんと2時間近くもムダに過ごしていたのです。うちにはスキャナ付きの複合機(プリンタ・FAX・スキャナ+コピー)があるにも関わらずです(笑)

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そこで、考えるよりとにかく全部デジタル化してしまえ!と思い、ひたすらスキャンを始めました。しかし、作業が1時間を超えたあたりで、また作業の手を止めてしまう雑念が頭をよぎります。

 

「複合機ってまったくMVPじゃない製品だな。機能をとてもじゃないけど一言では言い表せないし、そもそもイノベーティブじゃないし…。」

 

それからは、ひたすらスキャンを進めながらも「複合機はMVP? いや、複合機のMVPは? ・・・」と雑念が頭をかすめます。

複合機はMVPと呼べるのでしょうか?複合機のように複数の機能を備える製品は、MVPとは言い難いのでしょうか?

でももしMVPでないとしたら、逆に複合機におけるMVPとはなんだったのでしょうか?

MVPは本当に定義が難しい言葉です…。

 

MVP

 

 

 

 

昨年1年間も、初めてリーンスタートアップに触れる方に限らず、これから実践をする方、すでにビジネスアイディアをまとめている方など、とても幅広いみなさんと「MVPとは?」というテーマについてお話しさせて頂きました。MVPはリーンスタートアップを進める上での重要な考え方ですし、なによりスタートアップのスピードを加速するためには、MVPの概念は欠かすことができません。書籍「リーン・スタートアップ 」では「実用最小限の製品」と訳されたMVPですが、その解釈や実践については日本だけでなく世界中で様々な解釈があります。

 

本家エリック・リースの解説は以下の通りです。

“The MVP is that version of the product that enables a full turn of the Build-Measure-Learn loop with a minimum amount of effort and the least amount of development time”

「MVPとは、(Build-Measure-Learnの)フィードバック・ループ1周を回せる『必要最低限の労力』+『最低限の実装時間』バージョンの製品」(筆者訳)

 

これでは少し解釈が難しいので、昨年、私が多くの場で利用していた説明を2つご紹介します。

1つめは、イノベーションを起こす最初の製品・サービスは、最初に使いはじめるユーザがすぐに理解できるような単純な製品であるということ

2つめは、フィードバック・ループを回すための実験手段として、MVPは製品としてではなく学習を得るための手段だと考えるということです。

 

 

1は、イノベーションを起こすような新製品・サービスはアーリーアダプターのニーズだけを汲み取ることに専念すべきで、マスマーケットの多様化されたニーズに対応する製品・サービス設計をしてはいけないということを説明しました。アーリーアダプターが製品・サービスを手にした時に、ほんの数秒でバリューと使い方が分かるような状態でなければ、決してユーザに受け入れられることはありません。これは、アントレプレナーの多くが犯してしまう、適切なソリューション案を見出しているにも関わらず、機能をそげ落とすという恐怖に撃ち勝てずにムダな機能を盛り込みすぎたために、マーケットからイノベーションが認知されないという、とても残念な結果を生み出します。失敗する新サービスの多くは「機能が足りない」ことよりも「機能が多すぎ」て、プロポジションが明確にならないことで消えていくのです。イノベーションは機能やソリューションによって認知されるのではなく、「単純明快なプロポジション」から生まれるのです

 

2は、イノベーションの形成段階では、多くの場合、実験手段として作った製品・サービスと、正式なリリースバージョンの間には明確な境界線が存在しないことを意味しています。既存のマーケットに対して新製品を投入し、確実に予測された期間で投資額を回収するという「プロジェクト」とは異なり、イノベーションを起こすために新規市場と新製品を同時に開発する段階においては、実験フェーズとローンチ・公開(販売)フェーズを分離することはまったく意味がありませんし不可能なことです。市場の存在、そして市場の拡張とともに成長するイノベーティブな製品にとって、実験と製品の区別をつけることはそもそもも困難です。例えば初期のグルーポンは機能の多くをシステム化せず、手作業で処理することによってビジネスモデルを検証しました。つまり、スタートアップ側からすれば製品・コードなしでビジネスモデルを実験したにも関わらず、マーケット側からは完全にサービスが存在しているという状態なのです。どこまでの機能を実装すれば「サービス」と呼べるのか、どこまでしか実装しなければ「実験」にとどまってしまうのかを問うこと自体、あまり意味がないのです。

 

 

では冒頭の疑問に戻りましょう。『複合機はMVPと言えるか?』です。

一般的には、プリンタ、FAX、スキャン(コピー)という複数の機能を備えた製品を指し、1980年代後半は主に企業向け、1990年代には家庭向け製品も登場した複合機ですが、これは、リーンスタートアップという概念から考えると「MVP」と言えるでしょうか?

 

 

さきほどのMVPのポイントに沿って考えてみましょう。

 

1のシンプルであるという概念から見ると、複合機の機能説明は「プリンタ+FAX+スキャン機能を標準搭載し、コピー機としても利用できます」みたいになり、あまりMVPっぽいとは言えません。そもそも単機能でないですし、多様なニーズを拾い上げる、マスマーケットに向けた製品のような印象を受けます。

2の実験手段としての概念から見た場合も、複合機はすでに実験段階にあるとは思えず、プリンタメーカーやコピー機メーカーが考えた、高機能製品仕様だと考えるのが普通ではないでしょうか。つまりイノベーティブではなく、既存製品の後続・高機能製品だと。

 

しかし、年末に私の頭に「複合機=イノベーション?=MVP?」という疑問が浮かんだのは、実は複合機は十分MVPと言えるのではないだろうか?という疑問からでした。そして、その理由は、我が家になぜ複合機が存在するのかという理由でもあったのです。

 

これまでは説明したことがありませんでしたが、MVPの判断として基準になり得るもうひとつの解釈を説明しましょう。

 

そもそも家の中でプリンタしか使っていないひとにとっては、複合機は明らかにオーバースペックです。確実に専有面積は広くなりますし、そもそもFAXなんていつ使うのか分かりません。スキャン機能はもしかしたら便利かもしれませんが、何をスキャンしたいのかはまだ分かりません。こうしたユーザ(マーケット)にとって複合機はMVPにはなり得ません。

 

しかし、プリンタも、FAXも、コピー機(スキャナ)もすべてあり、これらが狭いオフィスのスペースを占領している人にとっては、これらの設置場所は「明確な課題」であり、お金で解決できるならなんとかしたい課題です。

 

つまり「機能の数がMVPとして適切であるか?」ではなく、「紙を排出する機器が1つになる」という1つの単純明快なソリューションがMVPになり得るということなのです。

 

新規事業を考える際にリーンスタートアップを意識すると、必然的に「機能を出来るだけ削る」という方向へ向かいます。しかし、ターゲットユーザの課題を「プリンタ・FAX・コピー機が多くの場所を専有している」と捉えた場合、そのソリューションとして「では3つとも紙を出力する機器なので1つにまとめます」というソリューションはシンプルすぎるぐらいにMVPですし、逆に、オフィスにある「紙出力機器」の機能が1つでも欠けていたら、複合機としての価値を失ってしまうかもしれません。

 

このような解釈をすると、MVPとは単純に「単機能であるか」とか「製品ではなく実験手段」との解釈だけでなく、「ターゲットするアーリーアダプターの現在の環境(=代替手段)」との対比が大きなイシューになります。

現在、課題を抱えている環境や理由に照らし合わせて十分にシンプルなら、そのアイディアが複数の機能やアイディアを内包していたとしても、それは十分MVPになり得ます。大切なのはみなさんがターゲットするアーリーアダプターが、いまどのような環境に置かれ、どのような代替手段を利用しているかを見極めることです。

 

プリンタのみユーザをターゲットするなら、複合機はMVPとしてはふさわしくないどころか、いくら魅力的だと思える機能を提案しても、結局は「いいね!」と言ってもらうだけで終わってしまい、彼らは決して購買行動を起こしません。つまり課題から入るなら、ソリューションがMVPではないのでソリューションが的外れになります。

 

しかし、プリンタ、FAX、スキャナ(コピー機)の全部を利用するユーザをターゲットするなら、Wifiやソーターなどの付加機能を持たなくても、紙出力スペースが一箇所ですべてが足りる複合機は立派にMVPと言えます。

つまり”Problem/Solution Fit”を実現するMVPとは、その機能数の問題などではなく、ターゲットするアーリーアダプターの持つProblemに対して、提供するソリューションが単純明快かどうか?という問題なのです。

 

Problemの的確さは誰をターゲットするかによって変化します。同じProblemでもターゲットが違えば「自分たちのProblemではない」と判断されるということです。

 

 

フィットしているかどうかは、現在の代替手段を見れば分かります。

プリンタのみユーザを観察すれば、コピーやFAXに対する代替手段は存在せず、この人たちがアーリーアダプターになり得る課題を持っていないことはスグに分かります。

 

しかし全機器を使用するユーザを観察すれば、ラックに3つを配置したり、舌打ちしながらコンビニへしょっちゅうコピーしに行くという手段こそが代替手段であり、これを一気に解消する複合機はまさにMVPたるソリューションになるのです。

 

 

そこで今日の再定義「MVPとは」

 

『”Problem/Solution Fit”を達成するために必要な、アーリーアダプターが利用する代替手段を超える最低限の価値提供成果物(または中間成果物)』

 

としましょう!

 

 

昨年末にご紹介した、アーリーアダプター、そしてアーリーアダプターの利用する代替手段の特定を進める為に効果的なビジネスモデルキャンバス”Lean Diagram”の2回めのワークショップを開催します。

2時間半のセミナー+ワークショップで、アーリーアダプターの特徴から代替手段までを特定するためのキャンバスの活用方法が学べます。

1回めは年末に急遽開催したためご参加頂けなかった方もぜひご参加頂ければと思います。

ワークショップのお申し込みはこちらからどうぞ。

http://everevo.com/event/3314

 

 

そもそも”Lean Diagram”とは?というみなさんは”Lean Diagram”のページ及び”Lean Diagram”を紹介したブログ記事をご一読下さい。

“Lean Diagram”の詳細、データダウンロード、マニュアルのダウンロードはこちらからどうぞ。

http://leandiagram.com/

 

“Lean Diagram”を紹介したブログ記事はこちらへどうぞ

http://leanstartupjapan.org/?p=513

 

 

今年もどうぞよろしくお願いします。