"Lean Startup Japan"

新規事業を成功させる4つのステップ

ビジネスモデルを設計するほど、成功から遠ざかる人々:検証「ビジネスモデル症候群」の症状と拡散の実態

「ビジネスモデル」が起業家を成功から遠ざけている、と言ったらば驚きだろうか

新たに事業を興す場面や教育機関における起業家育成において、「ビジネスモデル」の設計を指導し作成させれば、その目的、つまり新たな事業が立ち上がり、起業家を育成できるという幻想が世界規模で蔓延している。

ベンチャーの創業者は身近な顧客の要求を満たすことなく、スライドウェアを立ち上げてビジネスモデルの設計に精を出す。規模の大小を問わず企業経営者は、事業投資の判断材料に何の根拠もないビジネスモデルの設計を従業員に要求する。投資家はアントレプレナーの評価基準に、将来のポテンシャルよりも現在のビジネスモデル設計スキルを優先する。教育の現場では「キャンバス」と呼ばれるツールを使用してインスタント社長の大量生産を企てる。行政は産業振興支援策として応募者にビジネスモデルの設計を要求し、実現力よりも計画力を材料に採択する。

こうした現象は「ビジネスモデル」という、定義が明確でない用語の普及と共に各所で顕在化してきた。

そもそも「ビジネスモデル」という用語が意味する範囲は曖昧だ。一般的には、事業を成功に導くであろう(または過去の事例においてそうであった)要素、例えば、顧客への提供価値や収益源、販売チャネル、組織戦略や競合戦略などを、ひとつの「パッケージ化」したもののことを「ビジネスモデル」と称することが多いように思う。ある製品・サービスの「機能・品質・価格」の羅列ではなく、どのような「包括的な経営活動」が事業を成功に導いた(またはこれから導く)のかを明確にすることによって、経営において、ただ単純に優れた製品を開発すること以外の重要性を広く認知させる効果を持つ。これは、過去の事例を調査・分析し、解説する際にも利用されるし、新規事業としてこれから取り組む際にも利用される。ただし、どちらについても、どのような項目を含むと「ビジネスモデル」として成立するかといった明確な定義は存在していない。これは、アメリカで発表されている論文でも指摘されていて、IESEのクリストフ・ゾット教授によれば、ビジネスモデルについて言及された学術論文の多くは「ビジネスモデル」という用語が定義されることなく使用されていると言及している(論文はこちらよりDL可能)。経営コンサルタントやMBAプログラムは、各種フレームワークを利用した分析結果を要求し、学生向けの起業家育成プログラムでは、キャンバスを仕上げることと見栄えのするプレゼンテーションが求められる。企業における事業投資の際には、中長期に渡る未来予測が含まれていたりもするが、要するに「ビジネスモデル」と称される用語は、実に曖昧な用語であるということだ。

この曖昧さは、冒頭で紹介したように、多くの資本と時間をかけて行われる新規事業投資や起業家育成の現場において、とても多くの問題を引き起こしている。

起業家教育現場では、ビジネスモデルを設計できることが起業家として最初に求められるスキルセットのように扱われ、起業家予備群を「行動ではなく計画立案に専念」させてしまう。企業の事業開発においても、投資判断材料として重視されるのは机上の空論と皮算用で構成されたビジネスモデルで、実際の行動結果ではない。つまり、どのような場面においても、重視されるのは「実際に誰かの課題を解決する行動」ではなく「誰かの課題を解決するかもしれない仮説設計」であり、アントレプレナーシップに基づく自発的行動からひとを遠ざけてしまう。

「ビジネスモデル」という曖昧な用語は、それを設計することのメリットが多く語られてきた反面、不適切な利用や要求が引き起こす「デメリット」について触れられることなく普及してきた。しかし、何をするにしてもまずビジネスモデルの設計から、という誤ったアプローチは、冒頭でも紹介したように各所で実際に起きており、もはや看過できないほどに広がっている。

みなさんもご存じの通り、私も実際に多くのクライアントや起業家に対してビジネスモデルの設計を支援してきた。最初に設計したビジネスモデルは思い込みである可能性が高いため、仮説検証を繰り返してブラッシュアップしていくのがリーンスタートアップのやり方だと。しかし今では、この考え方は完全に間違っていると理解している。ビジネスモデルを設計するには適切なタイミングの見極めが要求され、しかもそのタイミングに合致する対象者は極めて限られた条件に当てはまる場合のみだという事だ。どんなケースでもまずビジネスモデルの設計から着手していまうと、MVPを作って仮説検証をしようが、フィードバックを定量的に評価してピボットを繰り返そうが、結局のところ、最後は「良い計画の立案」へ誘導する(してしまう)ケースがほとんどだったからだ。

12月にセミナーを開催する。その目的は「ビジネスモデル」という用語に起因する「デメリット」を明らかにすることだ。メリットについてはすでに数多く語られており、それをすべて否定することはない。しかし、かつて「戦略」という用語が多くの事業を成功に導いた反面、とても戦略とは呼べない代物が逆に数多くの企業を混迷へと陥れたように、この「ビジネスモデル」という用語についてもそのメリットとデメリットを明確に定義すべき時期に来ていると言うことだ。ビジネスにおいて「定義が曖昧な用語」は経営者の思考停止を引き起こす。「戦略/戦術」「KGI/KPI」「ミッション/ビジョン」など、概念は理解できるが、それを使いこなすことが出来ない経営用語はそこら中に存在しており、経営者の多くはコンサルタントに翻弄され続けてきた。そこで、私が実際に数多くの場面で体験してきた「ビジネスモデル設計」の負の側面を整理してお伝えしようと思う。経営用語はメリットの理解と共に広く世間に普及する。それであれば、デメリットもより多くの方に認知頂くには、デメリットに病名を付けて、その病名を普及させるのが適切だと思う。そこで、私はこうした「良いビジネスモデルが構築できれば成功する」という誤った認識に基づく一連の行動や結果を「ビジネスモデル症候群(ビジネスモデル・シンドローム)」と呼び、「ビジネスモデル」や「フレームワーク」といったツールの持つ危険性について、より多くのひとに認知頂きたいと思っている。

セミナーでは、ビジネスモデル症候群の詳細な症状に加え、どのような条件が整えば、ビジネスモデル設計が武器になり得るかも踏まえた解説をします。以下、イベント募集要項と申し込みページへのリンクです。どうぞ奮ってご参加下さい。

 

※12/8 19:28追記

12/8イベントにつきましてはお陰様で満席となりました。今回は会場の関係で増席は出来ませんが、新たに会場を提供頂ければ同一内容にてご紹介は可能です。当ブログの”Contact us“よりお問い合わせ下さい。どうぞよろしくお願いします。

 

エンタープライズにおける「新規事業成功の定義」とは

 

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ずらりと並んだ新規事業やベンチャー成功に関する書籍。新規事業開発や起業に関わる方であれば一度は手に取ったことがある書籍も含まれていることでしょう。著者の経歴を見ると、中小企業診断士やコンサルタントを職業とする方から、学術機関の研究者、投資家、そして起業家などが並びます。

私はプロセスコンサルタントの立場から、新規事業を成功に導くプロセスの研究を長く続ける過程でこうした書籍を数多く熟読してきたのですが、常にあるひとつの質問を掲げながら、こうした書籍を読んでいます。その質問とは・・・

そもそも新規事業の成功の定義ってなんだろう・・・そしてこの書籍ではどのように定義しているのだろう・・・です。

みなさん、こうした書籍を選ぶ際に、その本が設定している成功の定義と自分たちが設定している目標が一致していることを確認していますか?これらの書籍はいわば「手引き書」な訳ですが、手引きである以上、目標が一致していないことには役に立つのかどうかは分からないはずです。英語のTOEIC受験を目指しているときには、教材として「旅行の英会話」などの書籍を手にしないのは当たり前にも関わらず、ことが新規事業開発になると、その成功の定義を確認せずに様々な手引き書を参考にしてしまいます。
例えば早稲田大学大江教授の著書「なぜ新規事業は成功しないのか―「仮説のマネジメント」の理論と実践」という書籍では、まず新規事業の定義として以下のような記述があります。

「既存事業の水準を超えて、企業が新たに学習しなければならない未知の事柄が含まれる事業」

そして、新規事業の目標は、新規事業の規模を推し量る「利益」「利益率」「市場占有率」の3つから設定すべきであるとしています。
つまりこの書籍で論じられている新規事業開発手順によって得られるのは、目標に設定した利益、利益率、市場占有率を達成するということ、これが成功の定義だと言えます。
私のクライアントに同様の質問「この新規事業はどのような状態になれば成功したと言えますか」と尋ねると、ほとんどのケースで「事業の立ち上げに成功し、スケールして大きな収益・利益をもたらすこと」という返答が返ってきます。「新規事業投資」を決意した理由や背景は様々あれど、つまり、明確な数値が設定されているかは別として、基本的には新規事業開発成功の定義は、収益・利益において企業に貢献する新たな事業を開発することと捉えられています。

こうした定義は一見すると真実のように見えますし、冒頭でご覧頂いた書籍群もあたかもこの定義こそが新規事業開発成功の暗黙知的な了解になっているかのようです。しかし、これは本当にすべてのステークホルダにとって「共通」の目標や成功の定義と言えるのでしょうか。経営者、新規事業開発担当者、場合によっては投資家やパートナー企業も含め、「明確に」成功の条件が定義され、その目標に向かって最適化されたプロセスで事業開発が行われることはあるでしょうか。

ここでひとつの事業事例を見てみましょう。アシックスという企業が行っている「ASICS RUNNING LAB」というサービスがあります。ASICS RUNNING LABは、ランナーの4つのポイント(1.体格的な特徴、2.ランニングフォーム、3.脚の筋力、4.全身の持久力)を、まるでオリンピック選手にでもなったかの環境で測定して、改善すべきポイントのレポートを作成してくれるというサービスです。ひとりのランナーの測定に複数のスタッフがついてくれ、ランナー自身の写真に修正すべき点が記載された個別レポート作成まで入れて、料金は21000円です。

asicsrunninglab
http://www.asics.co.jp/running/lab
さて、これを見てみなさんはこのビジネスではどのような成功を定義されているかを考えてみて下さい。

アシックスはご存じのように野球やジョギングなどのスポーツ器具の製造販売を主力事業とするメーカーです。ということは、ランナーのランニング能力を測定してレポートを提供するというASICS RUNNING LABは完全なる新規事業だと言えそうですが、前述の「利益・利益率・市場占有率」や「スケールして大きな収益・利益をもたらす」を成功の定義として事業投資されたと考えられるでしょうか?また、こうした新規事業を立ち上げる際に、前述の書籍は参考になるのでしょうか?

さて、みなさんはこの新規事業成功をどのように定義しましたか?
恐らく多くの方が、以下のいずれかを挙げたのではないでしょうか。

  1. 測定料金の売上げによる収入増
  2. 測定後のアシックス商品の販売収益
  3. こうしたサービスを通じた、顧客の囲い込み
  4. 利用ユーザの口コミによるマーケティング効果
  5. 測定から得られるアマチュアアスリートの詳細なデータの価値

1と2は前述の書籍における成功の定義とも合致する点がありますが、3〜5を新規事業を始める際の成功と定義し、それを実現する手法を紹介している書籍はほとんどありません。しかし3〜5のいずれも、もしこの事業を行っていなければ、アシックス自身が多額の費用を支出することでしか得られなかった価値群な訳ですが、それをわざわざユーザが21000円持参で実施できるとしたら、実は1、2の販売目標額よりも遙かに大きな効果が得られる可能性があります。特に詳細なデータは無料モニターや実験協力者などではなく本物のユーザから取得されているため、とても信憑性が高く、こうした取組みを行っていない同業他社に比べると、新製品開発に大きなアドバンテージがあると判断できます。

このように考えていくと、エンタープライズが新規事業開発に取り組む理由は単純にビジネスモデルを構築し、収益・利益を増加させるだけだとは言い切れないかもしれません。収益・利益以外にも新規事業を立ち上げることで得られる効果は、ざっと挙げていくだけでも以下のように実に多彩なものになります。

  • 知識や技術
  • 技術を元にした特許や、商標・意匠などの知的財産
  • 知的財産から得られるライセンス収入や参入障壁
  • 知的財産の有無にかかわらず、技術や事業の売却益
  • 特定の技術やビジネスモデルを展開することによるコーポレート・ブランディング
  • ブランド力向上による既存事業や人材採用などへの貢献
  • 新規事業から獲得できる特定ターゲット層の顧客やアカウント
  • 特定分野への事業進出によって得られる補助金、助成金、入札資格など
  • 新規事業を展開することによって得られる様々なデータ
  • 従業員への福利厚生の一環

こうしてみると、新規事業開発の目的とは以下のように定義するのが適切かもしれません。

既存事業では得ることができないハイリターンな営業収益・利益が見込まれる事業の確立を中心に、同時に、新たなブランド価値、データ、顧客、資格、営業外収益などを得るための総合的な取組み

企業は投資活動を通じて成長しますので投資を止めることはできません。仮に新規事業として立ち上げたビジネスモデルや製品が伸びなかったとしても、投じた資本が易々とサンクコスト(埋没費用:回収不能になった資本)として処理されてしまうと、その企業における新たな投資欲は次第に減退していきます。ビジネスモデル化によるスケールアップがたとえ困難であっても、上記のようなありとあらゆる手段を講じた「投資した資本の回収」を行うことにより、企業の投資欲は常に高く保つことができそうです。本来の新規事業開発担当者のミッション定義としては、こちらの方が圧倒的に「ステークホルダ間で合意できる目的」となる可能性があります。

しかし、高度に細分化された現代の企業では、販売開始以降に新規事業設計担当者がそのミッションを継続することは希です。すでに担当は営業・マーケティング部門に移管され、残念ながら踊り場で停滞した新規事業はやがて経営者の最終英断にてサンクコストとして処理されるのが通常ではないでしょうか。「新規事業開発」を「ビジネスモデル開発」のみとして扱った場合、そのライフサイクルを通じて担当する部署が存在しないのです

昨今ではエンタープライズにおいてもリーンスタートアップは盛んに取り入れられているのですが、コンサルティングを進めていく中で最も大きなチャレンジは、企業内でも新規事業の成功定義が異なるケースに遭遇することです。特に経営層、中間管理職、実務担当者と言ったレイヤ間における成功定義の違いは、ある程度まではリーンなプロセスで進んだ事業開発を、結局、途中で停止させてしまう原因になります。

新たに導入するプロセスのあるべき姿とは「目的と手段」が一致している状態であり、企業内における新規事業開発成功の定義が「新たなビジネスモデルによる収益および利益確保」で統一されていれば、まずは小さなキャンバスから仮説検証を始めるというリーン・プロセスは、初期段階において大きな効果を発揮することはできます。しかし、もし前述のように経営者が「投資回収」を最も望んでいる場合、このようなプロセスだけでは、リーンという文化は企業に浸透し、継続されていくことはないのです。

さて、新規事業開発に携わるみなさんは、いま関わっている事業開発の成功をどのように定義していますか?
そして、社内における投資家である経営陣とは、その定義を共有していますか?

弊社で開催している「リーン・ファシリテーター」は、こうしたエンタープライズ固有の問題を対象とした「リーンスタートアップ」プログラムです。「新規事業開発あるある」のひとつである、「イノベーションを推奨していた経営者自身が、いつしか短期的な利益を要求し始める」などの現象が頻繁に起こるようであれば、今回の記事のように成功の定義がズレていることが原因である可能性は非常に高いと言えます。こうした事態の打開には、常にリーンをファシリテートする専門家の育成が効果的です。エンタープライズにおける新規事業に関する数々の問題は、デザインシンキングなどによるマーケット目線の導入や、キャンバスなどに代表されるベンチャー文化のまねごとだけでは解消しないのが現実なのです。

次回のセミナーが、4月15日(水)にて開催が決定しましたので、事業開発担当および経営者のみなさんにぜひご参加頂きたく存じます。

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http://peatix.com/event/79902

会場でみなさんとお目にかかれること楽しみにしております。