"Lean Startup Japan"

新規事業を成功させる4つのステップ

2016年現在で考えられる、最もリーンな起業プロセス

書籍「リーン・スタートアップ」のサブタイトルには「ムダのない起業プロセスでイノベーションを生みだす」とあります。

多くの方はリーン・スタートアップを新規事業立ち上げのプロセスだと理解していますが、リーン・スタートアップの本質は、起業時に生じるムダを排除するための、包括的な「革新的な経営」のことを指しています。単純な事業設計プロセスではなく、創業という特殊なフェーズから資源と時間の無駄使いを取り除くための一連の取り組みなのです。

今日は、これまでに試みてきた様々な取り組みの中から、実現力が高く、2016年現在で最もリーンだと思える起業プロセスを紹介します。これから起業を目指す方はぜひご一読下さい。

 

今日はさっそく結論から。
2016年現在、私が見いだした最もリーンな起業プロセスとは、

 

創業1年目には決して大きな勝負はせず、2年目以降の勝負に備えた準備だと割り切って創業することです。

 

多くの方が、人生で初めての起業のスタートと大きな事業への勝負を同時に行います。しかし、これはとてもハードルの高い行為で、ほとんどのひとは、起業とはどういう事なのかを理解する前に失敗してしまいます。この記事を読んでいるあなたが、これから人生で初めての起業をしようとしているのであれば、これは絶対に守るべき起業プロセスです。

経営の初心者で、事業開始時に見込み客もなく、ノウハウの蓄積もこれから始め、かつ資源に乏しいあなたは、まだ勝負に出る経営力を持ち合わせているとは言えません。頭の中にあるアイディアがどんなに素晴らしいものであれ、あなたの勝算はゼロに等しいからです。

勝算がほぼゼロな条件下でアイディアだけで起業するというのは、もはや経営ではなくギャンブルです。成功する確率がゼロだとは言いませんが、それなら会社員を続けながら宝くじでも買った方が辛い思いをせずに夢を追い続けられます。宝くじは当たらなくても痛みはありませんが、ギャンブル的な起業をして失敗する代償は計り知れません。事業を始めることはとても簡単な時代にはなりましたが、時間とお金(特に資金調達などにより他人の資本)をつぎ込んだ起業は、そんなに簡単に止めることは出来ません。それだけは絶対に覚えておいて下さい。大きな賭けはリスクを伴います。リスクはなるべく低減してから勝負をするということは、戦略思考で考えれば当然のことです。

これまでの起業成功術の類いは、いかに初年度から成功するかを中心に設計されていたように思います。しかし、これをやり過ぎると「ビジネスモデル症候群」へ向かっていき、かえって失敗を招く原因にもなっていると言うことは、前回の記事でもご紹介しました。かといって「とにかくやってみる」という起業も、スタートまでの時間は短縮されますが、実はトータルで見るととても長期間に及ぶムダを生み出すことが分かってきました。間違った起業プロセスは、創業者のお金と時間を大量に奪っていくのです。

 

「創業1年目は2年目以降の準備と割り切る」をもう少し具体化するとこうなります。

  • もしあなたが初めての起業なのであれば、特に創業初年度は大きな勝負を絶対に避けることです。あなたにはまだ大きな勝負をする経営力は備わっていません
  • しかし、経営力は実際に経営を始めていかないと身につきません。机上で勉強を重ねても、それは単なるシミュレーションに過ぎないからです。やると決めたら、早期に事業を開始しましょう。ただし大きな事業アイディアは必要ありません
  • ビジネスを有利に展開するためには、見込み客、ノウハウ、ブランド力などにおいて、あなたの企業がまず先にマーケットから信頼を得ていることが重要です。名もない怪しげなベンチャーが始めた事業より、信頼ある企業が始めた事業のほうが圧倒的に受け入れられやすいからです。いずれ大きな勝負をしたいのであれば、むしろ創業からしばらくの間は、この有利な状況を作り出すことに専念すべきです。それが結果的には近道になります
  • 創業時に必要なのはスケーラビリティのある事業設計ではありません。早期の収益化とノウハウの蓄積が可能で、できれば将来勝負する事業の潜在顧客になってくれる事業設計が理想的です。これにより、経営基盤と勝負に必要な環境整備が同時に進んでいきます。この両者を創業から出来るだけ早期に構築してしまうのが「スタートアップ」という存在です。最初からギャンブル的な創業をする集団のことではありません。エリック・リースは書籍の中で “Entrepreneurship is management” (起業とは経営である)と定義しました。継続的に挑戦を続けることができる「経営」を構築することこそが、リーン・スタートアップの目指すところなのです

 

この道のりが最もリーンな起業プロセスだと気づくようになったのは、「ビジネスモデル症候群」にかかって失敗していくスタートアップを尻目に、小さなチャレンジを積み重ね、そしてそのチャレンジを拡大していくというやり方で、創業から順調に成長しているベンチャーの存在を目にする機会が少しずつ増えてきたからです。彼らは決して無謀なチャレンジをしないので、基本的に経営状態は常に健全です。しかも、事業を展開すればするほど、顧客からの信頼とノウハウが蓄積していくため、より大きな勝負を出来る環境が自然と出来上がっていくのです。あとはいつ大きな勝負に出るか次第ですが、ギャンブル的な起業をするひとたちよりも有利な状態で勝負できることだけは明白です。

 

世間では、単に起業前の起業志望者を「起業家予備軍」と呼びますが、私の解釈では、このような経営基盤を確立しつつ、これから大きな勝負に出る準備を整え続けている経営者のことを「起業家予備軍」と呼びます。このように極限までムダの削減を追求した起業プロセスで経営を行う経営者からこそ、きっとやがて大きなイノベーションが生まれて来るからです。日本が優秀な起業家を多数輩出するようになるには、勝機を的確に捉えて有利に事業を展開できる、そんな経営者を育成する必要があるのです。

 

さて、最後にお知らせです。2010年に”Lean Startup Japan”ブログを開始してから、ずっと設計を重ねてきた起業家育成プログラムをいよいよ開始します。今日お話しした起業プロセスに沿って、みなさんを優れたベンチャー起業経営者に育て上げるまでの一貫したプログラムを、今年の6月から提供します。

プログラムのタイトルは”Lean Action Program“と言います。

プログラムのサブタイトルは「起業の成否は創業1年目で決まる」です!

blog_pub

 

もちろんビジネスモデル設計は一切行いません。創業者としての起業家本人と、起業家が設立する企業の経営強化だけに特化したプログラムです。強い起業家と強い経営を生み出すことこそ、イノベーションへ最も最速でたどり着く起業プロセスだと信じているからです。

これから起業を考えている方。すでに起業はしたけど、ビジネスモデル症候群で失敗した方。起業家を育成したいけど、ビジコン以外考えられないという支援者の方など、日本のイノベーション促進に真剣に取り組むすべてのみなさんが対象です。説明会も開催しますので、ぜひご参加下さい。

日本から新たなリーン起業プロセスが定着することを願っています。

 

◆Lean Action Programのホームページはこちらです

起業の成否は創業一年目で決まる ベンチャーにとって最も大切な1年目の経営 ”Lean Action Program”が伴走します

◆現在募集中の説明会はこちらです

2016/05/10開催@朝日新聞メディアラボ渋谷分室

2016/05/19開催@パラフト株式会社

 

3分でわかる「ビジネスモデル症候群」

 

2010年に当ブログを開設して「リーンスタートアップ」を紹介し、その後5年間にわたり実際に数多くの起業家や企業における新規事業開発を支援してきましたが、新規事業や起業を成功させるにはとにかく良いビジネスモデルを(仮説検証をしながら)設計できることが条件だと盲目的に認識している状態とは、「ビジネスモデル症候群」という「思い込みの病」を患っている状態だと感じるようになりました。

理由はとても単純。私が携わってきた事業開発や起業シーンにおいて良いビジネスモデルの設計と実現を真摯に追い求めるひとほど、現実的には良い結果を得られていないという現実が数多く発生したからです。そしてそのような状態に陥らせるよう、私自身が実に多くの方をミスリードしてきてしまったのです。一般的には事業成功確率と正比例の関係にあると信じられているビジネスモデルの設計・構築が、どのように事業開発や起業に悪影響を及ぼすかについて、最重要なポイントだけご紹介します。

私がこれまで経験した事業開発支援から、ビジネスモデルの設計・構築という行為には、マイナスの効果を生んでしまうデメリットが2つ存在することが確認できています。それは「シミュレーションに多大な資源を費やす」こと、そして「収益源の選択肢を狭める」ことです。この2つのデメリットは事業設計の初期段階において特にマイナス効果が大きいため、新規事業開発や起業の最初のステップとしてビジネスモデルの設計を開始することこそが、事業投資の失敗を招くという結果を生んでいるのです。2つのデメリットを説明します。

1.ビジネスモデルの設計が事業投資をシミュレーションに止まらせるというデメリット

ビジネスモデルを設計するという作業では、様々な仮説を設定し検証を行います。つまり「ビジネスモデル設計」とは、事業に実際に投資を行ったらどのような結果が得られるかを、実際に多くの経営資源を投じる前に「シミュレーション」している状態だと言えます。さてここで問題となるのは、シミュレーションから得られるデータの精度ですが、シミュレーションの精度が信用に値するかどうかは、「シミュレータ」がいかに実際の環境に近い状態にあるかによって決まります。しかし、事業開発に携わった方であればご存じの通り、「新規事業開発」とは「連続して発生する想定外への決断と対応」と同意語であり、シミュレータの精度が実際の環境とイコールになることなどありえないのです。

ということは、リーンの観点では、ある特定領域に対して事業投資を決定しているにも関わらず、半年・一年、いやそれ以上にシミュレーションに経営資源を投じるとはこそが「ムダ」だということであり、シミュレータの精度を向上させるには、実際に事業を開始する以外に手段はないということなのです。実際に事業を開始しないシミュレータの精度は著しく低いということを認識する必要があります。

2.ビジネスモデルの設計が収益源の選択肢を狭めるというデメリット

多くの場合、ビジネスモデルの設計という行為では特定の「収入モデル」を仮説化します。例えばフリーミアムモデルでプレミア会員からの月額フィーによって収益化するとか、多くのトラフィックを集めてメディア価値を向上し広告収入を得る、といった具合です。これを経営の観点から見ると、いわゆる「選択と集中」を行っていると言えるのですが、選択と集中が良い成果をもたらす唯一の条件は、数多くの選択肢の中から「最も勝算のある事業や収益源」を見いだし、そこに経営資源を集約させることです。つまり、まだどこにも勝算が見えていない状態で行う「選択と集中」は、基本的な経営の原則に逆らっている状態なのです。経営には原理原則がいくつか存在するのですが、特に財務面における原理原則に背いて成功する事業は絶対にありません。「事業の初期段階で勝算のない事業形態に経営資源を集中する」という行為は、完全にこの原理原則に反するものだと言えます。

この2つを一度理解してしまえば、ビジネスモデルの設計とは「適切なタイミングにて、勝算のある事業に対してのみ行われるべき」だということが分かります。

それでもまだみなさんは何も事業を実践していない段階で「シミュレーション」を続け、勝算のない事業に対して「誤った事業選択と集中」を続けますか?

これが2015年末までに私が見いだした、多くの方が事業立ち上げ時に最も顕著に犯す失敗のパターンです。そして今、「ビジネスモデル」という定義のハッキリしないキーワードによって、多くの人がこの失敗を繰り返しているのです。

これは、新規事業開発を行う企業や起業家だけに発生している症状ではありません。投資家、事業支援者、教育関係者、経営学研究者の間でも広範囲に広がる世界的な病なのです。

2008年、エリック・リースは「思い込みを捨てて顧客に学ぼう」と「リーン」であることの重要性を伝えてくれました。

2015年、私は「事業開発の最初の一歩では、ビジネスモデル症候群から脱却しよう」と「リーン」を推奨します。

今日、この記事を読んでいる最中にもシミュレーションを行い、勝算のない収益モデルに経営資源を集中させているあなたは、まさに「ビジネスモデル症候群」なのかもしれません。

来年こそはリーンな事業開発ができるよう、ぜひこの年末のタイミングでご自身の状態を振り返ってみて下さい。

また、ビジネスモデル症候群からの脱却方法については、今年の取組みの中で様々な実験を継続しています。自分も、自分の会社もぜひその実験に参加してもいいとお考えの方がいらっしゃいましたら、ぜひこちらからお問い合わせ頂ければと思います。これまでに蓄積した知見はすべてお伝えしますので。

※こちらの資料は2015/12/8に開催したセミナーでご紹介した「ビジネスモデル症候群」のスライド資料です。200枚弱のボリュームある資料ですが、ビジネスモデル症候群の発生メカニズムやビジネスモデル設計が有効な場面についても合わせてご確認頂けますので、上記記事で関心を持たれたらぜひご一読下さい!(たとえばビジネスモデルというシミュレーションを行うことは、「事業投資をしない」という経営判断を行うには効果があるということなどを解説しています)